治療について
TREATMENT
信愛会脊椎脊髄センターでは、
手術・保存療法・リハビリを
有効に組み合わせて
治療を行います。
様々な原因で脊髄や神経が圧迫され、日常生活に支障をきたすような痺れ・痛み・麻痺がある場合、そしてそれらが保存的な治療で改善しない場合に、手術治療を行います。
脊椎手術は、脊髄や神経への圧迫を解除する除圧術と、脊椎の不安定性や変形を矯正する固定術の二つの手術法に大別されます。
病態や脊椎の部位に応じて手術法が決定されます。また腫瘍に対しては摘出術を行います。
除圧術
背骨には脊柱管という管があり、脊髄や神経は脊柱管の中を走っています。その脊髄や神経が圧迫されることで様々な症状を引き起こすため、圧迫している骨や靭帯や椎間板を取り除いたり、一部の骨を移動させて脊柱管を拡大したりします。
固定術
脊椎が不安定であったり変形したりすると、それだけで痛みやしびれの原因となります。そのような場合は、症状を改善する目的で固定術を行うことがあります。チタン製の器具を用いて固定する方法と、後方から椎体にスクリューを挿入して結束することで固定する方法に大別されます。
腫瘍摘出術
脊柱管内に腫瘍が発生すると、腫瘍により脊髄や神経が圧迫されていろいろな症状が発生します。 脊髄の髄内に発生する場合と脊髄の髄外に発生する腫瘍があり、多くの場合は良性腫瘍で比較的安全に摘出可能です。
経皮的椎体形成術
経皮的椎体形成術は圧迫骨折した背骨に実施される手術です。針を使って背骨にセメントを注入し、骨を安定させて痛みを和らげます。この手術は3mm程度の小さな切開から行われ、短時間で終わり回復が早いのが特徴です。高齢者や骨粗しょう症の患者様に適しています。
手術前の準備について
服用している薬はもれなく伝えましょう
薬によっては、麻酔や手術に影響を与えるものがあります。
特に血をサラサラにするお薬を服用されている方は、必ず医師や看護師にご相談ください。
タバコは控えるようにしましょう
手術の危険性を減らし、回復の度合いが良くなります。
手術1ヶ月前からの禁煙をおすすめします。
かかりつけの医師に伝え、体調を整えておきましょう。
風邪などをひかないよう体調管理に気をつけていただき、筋力の維持にも努めましょう。
手術前の説明から入院、退院までの流れ
以下の方法と流れで手術を行います。
手術に関するご説明
- 1.担当医より、手術の必要性・内容・症状が改善する可能性・合併症について説明があります。
- 2.手術を安全に行うために、血液と尿の検査/心電図/胸部レントゲン/肺活量/心エコー検査(主に心疾患の既往のある方や高齢者の方)など全身の状態をお調べします。
- 3.入院の予約とご説明を致します。
手術の前日の流れ
- 1.ほとんどの場合には手術の前日に入院します。
- 2.入院後は禁煙です。
- 3.可能であればシャワー浴をして全身を清潔にします。
- 4.決められた時間以降、飲食ができなくなります。
- 5.眠れない場合には睡眠薬の服用も可能です。
手術の当日の流れ
- 1.手術は、午前の手術であれば9時30分、午後の手術ですと13時頃になります。
- 2.麻酔をかけます。全身麻酔をかけると、ただちに意識がなくなります。
- 3.手術が終了しますと、仰向けの状態で目が覚めますが口には管が入ったままです。
- 4.意識が戻ったことが確認されますと、管が抜かれ麻酔が終了します。
手術の翌日の流れ
- 1.手術直後から、医師や看護師が患者様の状態を観察します。
- 2.尿が出てくる所に管が入っています。手術した部分に血液が貯まらないように、血液を排出するためのドレーンと呼ばれる管が入っています。深部静脈血栓症の予防のために、手術直後から弾性ストッキングまたは弾性包帯を着用します。さらに、足の血管を圧迫する特殊な器械を装着することがあります。
- 3.手術した部位の痛みに対して、注射や点滴で鎮痛剤を投与する場合があります。鎮痛剤を使用しても、多少の痛みを感じることもありますが、これは異常ではありません。しかし、薬で痛みが軽減しない場合には、必ず医師・看護師に伝えましょう。
- 4.翌日までベッド上で安静の状態になります。
- 5.ベッド上で、わからないことや不自由なことがある場合は、遠慮せずにナースコールを押しましょう。
翌日以降の流れ
- 1.レントゲンとCTで手術に問題がなかったかどうか確認します。また、採血により血液の状態に問題ないかどうか確認します。
- 2.問題なければ、ドレーンと呼ばれる管と、尿を出すための管を抜去します。
- 3.問題なければ、固定装具を装着してトイレに行っていただきます。
- 4.手術翌日からリハビリテーションが開始されます。必要に応じて回復期リハビリ病棟へ移動していただきます。
- 5.手術後1週間目にレントゲンと採血で問題がないかどうか確認します。
- 6.リハビリが必要なければ退院となります。
- 7.リハビリの継続が必要であれば、回復期リハビリ病棟への転棟を検討します。
固定装具について
手術方法や患者様の状態により異なりますが、術後に固定装具を装着します。
装具には患部の動きを制限して安静を保ち、さらに補助的に脊椎を支持する役割があります。使用する際は、医師や看護師、理学療法士等の指示に従って適切に着用するようにしてください。
フィラデルフィアカラー
ハローベスト
ソフトカラー
硬性コルセット
ダーメンコルセット
(軟性コルセット)
手術に関する諸注意点
脊椎手術のほとんどは全身麻酔で行われます。麻酔にともなう誤嚥性肺炎を防止するために手術前日の夕食後より絶食となり手術2時間前より飲水禁止となります。麻酔は高血圧や糖尿病、肝疾患や腎疾患、心疾患や脳疾患、肺疾患やアレルギーなどに少なからず影響を及ぼし、場合によっては悪化する可能性があります。 そのために術前に全身に異常がないかどうか検査を行います。また、全身麻酔では気管の中に管を挿入しますが、それに伴い口唇や歯の損傷、咽頭痛や嗄声(声がかれること)、麻酔覚醒後の嘔気や嘔吐などが発生する可能性が少ないながらあります。
心疾患の既往のあるかたや高齢者の方は心エコーの検査を追加します。HbA1cが7.5以上の糖尿病が有る方は、手術2週間前からご入院いただき糖尿病の管理をおこなう必要があります。血をサラサラにするお薬を服用の方は、薬の種類に応じて数日から最大2週間服用を中止していただく必要があります。中止が困難な場合には、早めに入院していただき管理を行う必要があります。
深部静脈血栓症は、飛行機などで長時間足を動かさないでいると発症するエコノミークラス症候群(旅行者血栓症)と同じものです。
下肢の静脈に血の塊(血栓:けっせん)ができて血流が悪くなり、下肢がむくんだりふくらはぎが痛んだりします。この血栓が何かの拍子にはがれ、血流に乗って肺の血管をふさいでしまうのが肺塞栓症です。
肺の血管がふさがると、呼吸困難や胸の痛みを感じるようになります。時に取り返しのつかない重篤な症状を引き起こす可能性があります。
予防のために、手術中から術後にかけて、一定の時間をおいて下肢の血管を圧迫する装置を装着したり、あるいは血栓をできにくくする薬剤を投与したりします。
また、弾性ストッキングを着用する場合もあります。
患者様自身でできる予防法としては、足首の曲げ伸ばし運動があります。
脊椎手術では、少ないながら神経症状の悪化が発生する場合がありますが、多くの場合にはリハビリで改善します。
頚椎椎弓形成術では腕が上がりにくくなるような脱力症状や痺れ痛みなどの感覚障害が1~2%程度の頻度で発生することがありますが、多くの場合は一時的です。また、後頚部の痛みは、ほぼ全例で発生しますが、1週間程度である程度改善します。
しかしながら、姿勢が悪いと数ヶ月以上持続する場合もあります。頚椎前方固定術でも、非常に少ない頻度で上下肢の脱力症状や痺れ痛みなどが発生することがありますが、多くの場合は一時的です。
また、稀に飲み込みにくさやかすれ声が発生することがあります。腰椎の手術でも、稀に下肢の脱力症状や痺れ痛みなどが発生することがあります。
神経症状の悪化の他に、傷の問題で治療が長引いたり再手術が必要になったりする場合があります。
一つ目は、手術部位に血がたまり脊髄や神経を圧迫するようになると、血の塊を除去するための再手術が必要になる場合があります。術後数時間から数日以内に発生します。発生する頻度は約0.5%程度です。
二つ目は、感染です。
術後、抗生物質は手術翌日に1回点滴を行うことで終了しますが、感染の兆候が認められた場合には抗生物質の投与を延長あるいは再開します。
また、膿が形成され創部が腫脹したり離開したりする場合には、創部を洗浄するための再手術が必要になる場合があります。再手術の頻度は約0.5%程度です。
三つ目は、脳脊髄液の貯留です。
手術中に、脊髄や神経を覆う膜(硬膜)が裂けることがあります。 その場合は、ヒトの血液からつくった糊でシールしますが、それでも硬膜の中を流れる脳脊髄液が漏れてくることがあります。
多くの場合、自然に治まりますが、創部が腫脹してくる場合には再手術が必要になります。再手術の頻度は約0.5%程度です。
1. 頚椎の手術の場合
多くの場合、頚椎の手術後一週間は首を装具で固定します。退院時に装具を必要とすることは、ほとんどありませんが、それでも、しばらくの間は首の動きが制限されます。
そのためどうしても視野が狭くなり、少しの段差でもつまずいてしまうことがあります。
このような危険を避けるために、自宅を見直しましょう。
【足元の環境を整える】
床の上の小さな敷物などは、取り払うかピンなどでしっかり固定しましょう。
また、床を這うような電気のコードなどもテープで固定しておきましょう。
この他、玄関や部屋のわずかな段差を調整しておくと良いでしょう。
【階段に手すりをつける】
手すりのない階段は危険です。もしも手すりがない場合は、この機会に設置することをお勧めします。
ベッドの使用が望ましいです。
術後しばらくは布団の上げ下げのないベッドの方がより楽でしょう。
最近ではレンタルベッドもあり、介護用品店やデパートの健康用品売り場などでも相談できます。
2. 腰椎の手術の場合
腰への負担を少なくするために、自宅を見直しましょう。
【トイレは洋式】
腰に負担がかからず、患者様自身も安心して使用できるので、トイレは洋式が最適です。もしも、自宅が和式トイレの場合は、便器の上に置いて洋式と同じ姿勢がとれる便座を利用すると良いでしょう。介護用品店などで市販されています。
【ベッドの使用が望ましい】
布団から起き上がるよりも、ベッドでの寝起きの方が腰に負担がかからず楽でしょう。
最近ではレンタルベッドもあり、介護用品店やデパートの健康用品売り場などでも相談できます。
ベッドの硬さは、軟らかすぎず、病院のベッドと同じくらいの硬さが最適です。
簡単に寝返りができ、ベッドの縁に腰をかけても沈み込まないものが良いでしょう。高さは、あまり高くない方が便利です。
【畳の部屋にも椅子を一つ】
和室にも椅子を一つ置いておくと、疲れた時に簡単に休めるので大変便利です。
椅子は低すぎず高すぎないものを選びます。できれば背もたれのあるものが良いでしょう。
脊椎疾患の多くは、保存療法によって治るものも多く見られます。当院では、まずはご自身の努力によって、ご自身で直していただくことを主眼としています。
保存療法とは、脊椎の構造や機能を維持し改善することを目的とした治療手法です。薬物療法(注射含む)、食事療法、運動療法、放射線療法、心理療法などがあります。診断のうえ、適切な方法を組み合わせてご提案させていただきます。
薬物治療(脊椎疾患で使用される主な薬剤)
各種外用薬
湿布や塗り薬などの外用薬を使用して改善する場合があります。
非ステロイド系消炎鎮痛薬
胃の炎症を生じることがあるので、服用には注意が必要です。
プレガバリン ミロガバリンベシル酸塩
神経障害性疼痛に対して使用されます。神経の痛みに対しては有効なことが多いですが、この薬が有効な方とそうでない方がはっきりしており、気分が悪くなる、ふらつく、眠くなるなどの副作用が出る場合があります。
ノイロトロピン
腰痛に対して有効ですが、副作用が少ないかわりに効き目がマイルドです。
トラマドール塩酸塩などのオピオイド
上記の薬が無効な場合に用いられます。吐き気を催す場合があり、吐き気止めと一緒に服用します。便秘になることもあります。
リマプロストアルファデクス
末梢血管を拡張させ血流を改善する作用のある薬で、腰部脊柱管狭窄症に対して用いられます。しびれや間欠性跛行を改善させる効果がありますが、効果は比較的マイルドで、ゆっくりと効きます。
芍薬甘草湯
こむらがえりに効果があります。
神経ブロック
神経根ブロック
神経根とは、脊髄から上肢に向かって枝分かれしている細い神経のことで、この神経が圧迫されたり刺激されることで、肩から腕にかけての部位に痛みが生じます。
神経根ブロックは、背骨の神経の根元(神経根)に麻酔薬を注射し、痛みの経路をブロックすることで痛みを和らげます。痛みの原因が確かでない場合に使われます。透視下に行う必要があります。
上殿皮神経ブロック
上殿皮神経とは、背骨から背骨・お尻の皮膚にある数mmの細い神経のことで、この神経が圧迫されたり傷つくと、腰痛などの痛みを起こします。
上殿皮神経ブロックは、殿部に麻酔薬を注射することで痛みの経路をブロックし、和らげる作用があります。
物理療法
温熱療法、光線療法、牽引療法などがあります。ある一定の効果が認められていますが、根本的な治療ではありません。当センターでは行っていません。
リハビリテーションは本来あるべき状態への回復という意味合いを持ち、障害された身体機能を訓練により回復させていきます。そのお手伝いをするのが、リハビリ専門医、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハビリスタッフです。脊椎の手術の後に重要になるリハビリとしては、筋力低下に対して行う筋力増強トレーニング、関節可動域増大を目的としたストレッチ、歩行障害に対して行う歩行訓練があります。できるだけ早期にリハビリを始めることは廃用症候群(筋肉を使わないことで機能が低下すること)や 深部静脈血栓症の予防だけでなく、脳神経の回復にも大切です。
リハビリテーション科のご紹介
ひとりひとりに
適したリハビリ
テーション
ひとりひとりに適した
リハビリテーション
当院リハビリテーション科では骨関節疾患・脳血管疾患・呼吸器循環器疾患・神経筋疾患などを対象としています。また、医師・ 看護師・医療ソーシャルワーカー・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等が専門性を活かしながら共同で障害治療を進めていきます。
手術後に、できるだけ早期から適切な機能訓練を行い、環境を整備(住宅改修等)し、周囲の支援やサービスを上手に利用しながら、たとえ障害が残ったとしても可能な限り自立した生活を送れるように取り組みます。
理学療法士
について
理学療法士
理学療法士は、運動障害のある方に対して、起き上がる・立つ・歩くなどの動作が獲得できるように、「運動の改善」に必要な運動機能のリハビリテーションを行います。
作業療法士
について
作業療法士
作業療法士は、障害のある方が主体的な生活を獲得できるように、日常生活動作や仕事・趣味活動などの生活全般に関わる幅広い作業活動のリハビリテーションを行います。
言語聴覚士
について
言語聴覚士
言語聴覚士は、脳卒中等の後遺症によって人や物の名前が出てこなかったり、人の話がわからなくなったり (失語症、高次脳機能障害)、うまく飲み込めなくなって食事がしにくい(嚥下障害)患者様のリハビリテーションを行います。